序文にかえて
パリを皮切りに、アメリカ、ロンドン、そしてスイス等、国外が人生の半分以上になりました。多様な人々や文化や言葉に晒されるのがごく当たり前の日常。その中で色々なことを思ったり考えたりします。音楽と文学と哲学とお酒が、たぶん一番好きなことですが、昨今の国内外の状況には、いつまでもapoliticalでいられるはずもなく、ここでもときどき政治のことを書いたりします。
最新刊 「パリ妄想食堂」(角川文庫) 近著 「神話 フランス女」(小学館) 「難民と生きる」(新日本出版社) 「旅に出たナツメヤシ」)(KADOKAWA) 執筆依頼、その他、お問い合わせはmnagasakaアットマークbluewin.chまで カテゴリ
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2011年 01月 21日
娘の学校(フレンチリセ)のママ友に誘われ、English book clubなるものにゆる〜く参加している。
昨日はその集まり(ほぼ月に一度程度)で、メンバーの一人の自宅でのブレックファーストミーティングに顔を出してきた。今回の課題図書は小説Room (Emma Donoghue)と 短編集Too much happiness(Alice Munro)。二冊とも、このクリスマス休暇中に読み終え、それなりの感想もあったので、ブラウニーなどをほおばりつつ、それを発表してきた。 しかし、(スイス)ドイツ語の土地に住みながら、フレンチリセの父兄たちと、英語の本を読んでディスカッションするという状況が、なんだかおかしい。そもそもそのクラブのメンバーの国籍・出自も実にまちまちだ。サザン、サザンと、やたら南部出身を強調するのは、ヴァージニア州出身の米国人L。同じ米国出身でも、ノルウェー人の父とイタリア人の母をもつのはK。最近別れたばかりの元・夫はアイリッシュだけど、自分はフレミッシュのベルギー人というB。はるばるオーストラリアからやってきた(期待を裏切らぬおおらかな人柄の)D。夫はブリティッシュ、自らはアイリッシュのH。ドイツ語圏スイス人の父とコロンビア人の母、アメリカ人の夫を持つS・・・・・などなど。 英語が母語の人もいれば、そうでない人もいる。5つくらい言葉を話せる人もいれば、(ほぼ)英語しかできない人もいる。仕事をしている人もいれば、主婦の人もいる。さまざまな事情で、現在、たまたまチューリッヒに居を構え、子供をリセに通わせているという以外にはそれほど強力な共通点のない女性たちのこの集まりは、だが、英語で本を読んでそれについてディスカッションする、という一点で強くつながっているのである。 そもそもこのブッククラブというコンセプト自体、とってもとっても英語圏的だ。ドイツ語圏ではレーズングといって、作家が聴衆を前に自作を朗読するという行いが、文学的営みとしてものすご〜く一般的だが、英語圏はなんといってもブッククラブ。 「この本、ブッククラブのために読まなくっちゃいけないのよ〜」 食卓である日、なにげなくそうつぶやいた私の一言に、16才の息子が妙に敏感に反応。 「え、ママ、ブッククラブやってんの?」 「まあね、一応」 「それ、クールじゃん!!」 「・・・・・ハ?」 「コーヒーとか飲みながら、手作りケーキとか食べながら、どっかの家でやるわけでしょ。すっげぇ〜、ほんとのwell educated house wive's pass timeじゃん、それ。7th Heaven みたい」 なんだか、この息子、母親がブッククラブやってる、という事実に対し、やけに嬉しそうで、やけにサポーティブなのである。ちなみにこの7th Heavenというのは、10年か15年くらい前のアメリカのTVホームドラマの題名。大昔の「ゆかいなブレディ家」とか、「パパはなんでも知っている」の流れをくむ、善良なアメリカをそのままてらいなくストーリーに仕立てたシリーズで、「け」とか思いながらも、ときどき不覚にもほろりとさせられる、そういう(実に人畜無害系の)番組なのだ。そして息子の指摘を待つまでもなく、たしかにブッククラブは、こうしたアメリカ郊外暮らしの大卒(または大学院卒の)主婦のライフスタイルにおいて、まさに欠かせないアイテムなのである。 それにしても英語圏の人(というか作家)を羨ましいと思うのは、こんなブッククラブに顔を出しているときだ。我がクラブが選ぶ本、ことのほか、その出身地は、メンバーの出自のバラエティーを反映してか、それはそれは多地域におよぶ。英米メインストリームはいうまでもなく、カナダ、アイルランド、オーストラリアからインド、シンガポール、南アフリカにいたるまで、英語の書き手のいるところへなら世界中どこへでも飛んで行くという様相。こうした書き手たちは、まさに世界に向けて発信している、マーケットは世界全体(それも英語母語者とは全然限らないし)という事実を痛いほど思い知らされる。 ひるがえって日本語の書き手は、Murakamiクラスの超大物でもない限り、そうそうめったに「発見されて翻訳される」ような機会は巡ってこない。ましてや、原典オリジナルのまんま、どこか遠い国のブッククラブでとりあげられるなどということもあり得ない。少子化日本はこれからどんどん人口が減少していくっていうし、反面「なにか書いてみたい」という人口だけは確実に増えているし、これじゃ共食いだね、まったく、と、読者の地平が無限に開かれているような英語圏書物の一人勝ち状態の前に、思わずうなだれそうになる。 とはいえ、逆にいえば「英語でしか読めない人たち」に対する、気の毒に、という思いもないわけではない。ブッククラブのメンバーの一人がいっていたことをふと思い出した。 「原典で読める限りはなるべく原典で読むようにする」 この場合、彼女にとって、この条件を許す言語は英語のほかに、フランス語、イタリア語、ノルウェー語があるわけだから、カバー範囲もなかなか広いことになる。 その彼女の提案で、私が、これは、と思う日本の本(で、英訳が出ているもの)を我がクラブ用に推薦することになった。さすがに日本語で書かれたものをわざわざ英語では読まないから、どんな本が(それも近頃の本の中で)翻訳されているのかという事情にはまったく通じておらず、急に妙案も浮かばない。ということで、次回のお集りまでに、候補をいくつか探しておくことが宿題となった。 さて、なにがいいかな?
by michikonagasaka
| 2011-01-21 00:40
| 混沌マルチリンガル
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