序文にかえて
パリを皮切りに、アメリカ、ロンドン、そしてスイス等、国外が人生の半分以上になりました。多様な人々や文化や言葉に晒されるのがごく当たり前の日常。その中で色々なことを思ったり考えたりします。音楽と文学と哲学とお酒が、たぶん一番好きなことですが、昨今の国内外の状況には、いつまでもapoliticalでいられるはずもなく、ここでもときどき政治のことを書いたりします。
最新刊 「パリ妄想食堂」(角川文庫) 近著 「神話 フランス女」(小学館) 「難民と生きる」(新日本出版社) 「旅に出たナツメヤシ」)(KADOKAWA) 執筆依頼、その他、お問い合わせはmnagasakaアットマークbluewin.chまで カテゴリ
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2012年 09月 13日
昔、パリでデザイナーの島田順子さんにインタビューしたことがある。その内容は忘れてしまったけれど、ひとつだけ、鮮明に覚えている彼女の台詞。それは、
「キッチンでジャガイモの皮むいてるときも足下はハイヒール、というような、そんな女性でいたいと思うのよ」 という一言。 こ、こ、これだ、と当時の私はいたく共感し、白髪混じりのバサバサに乾いた髪を無造作にバレッタでアップしているその「パリっぽさ」と共に、「いいね、順子さん!」と心の中で大拍手を送ったのだった。 さて、ここからが問題である。上記の逸話が物語るように、私は「靴」というものにかなり敏感な質(たち)。ハイヒール、もしくはバレリーナかフリップフロップの二極をこよなく愛し、その真ん中へんの中途半端な靴というのはあまり好きじゃない。そういう好みに従って、これまでたくさんの靴を買ってきて、だから靴はたくさん持っているのだけれど、実はいまだに(というのはチューリッヒでピアノのお稽古を再開して一年半たった今でも、ということです)「ピアノ仕様の靴」をどうしたらいいかわからないのである。 右足はペダル、それも半ペダルをたくさん使い、左足は弱音ペダルをこれまたしばしば使う、そういう基本的な脚の動きの邪魔にならず、かつ、椅子に座ったときの膝の角度がいい感じになって変な姿勢にならない、そういう靴をここ一年くらい何となく気にして探しているのだけれど、どうも「これ」というのが見つからないのである。 仕方ないので、家にあるいろんな靴を片っ端から履いて「実験」してみるのだが、本当に全然うまくいかない。ピンヒールはなんだか支点がぐらぐらして不安定、よって、時折「ズリッ」と滑ってしまう。ヒールが高すぎると今度はペダルを下まで踏み込んだときに足首がものすごいポワント(フレックスの反対、足首がそるように伸びる)状態になって、マジで脚がつりそうになるし、同じ椅子の高さだと膝が上に上がり過ぎて落ち着かない。ブーツだと、足の甲から足首、すねにかけて閉じているわけだから、とりわけ固めの革だと足首がしなやかには動かない。かといって、「ドタ靴」的なものを履くのはあまりにいやなので、そのオプションは最初からアウト。バレリーナだと、どこか裸足の心もとなさがあって、クイッとした感じがやりにくい。コルク底は、かかとだけでなく前方も上げ底になっているものしかなく、そうすると、自分の足とペダルとの間に距離があり過ぎてコントロールがうまくできない。もちろんかかとの閉じていないミュール系、スリッパ系は論外。 いつだったか、レッスンに行った時、廊下に並ぶ椅子の下に私の前の生徒さん(年配のご婦人)の靴が一足、きちんと揃えて置かれていた。その隣の椅子に腰掛けて順番を待ちつつ、「これ、どういうことなんだろう」と思っていたら、間もなくレッスン室のドアが開き、そのご婦人が先生にさよならを言って出てらした。足下は、なんとスニーカー、それもナイキのエアなんとか、みたいなゴツいタイプ。そのスニーカーを彼女はよっこらしょ、と脱ぎ、椅子の下に置いてあった革の靴(とはいえ、ドタ靴系ではあったが)に履き替えるではないか。う〜ん、レッスン用に履き替えるのはいいとして、ドタ靴→スニーカーというのはいかがなものだろうか、と私は大変いぶかしく、理解不能感に陥ったわけだが、もしかしたらご妙齢の彼女のこと、足首を痛めてるとか、膝のリューマチがあるとか、そういう事情かもしれない。私がとやかくいう問題じゃないね、と素早く反省。 されば、プロの女性ピアニストたちは一体どんな靴を履いてるんだっけ、と、早速研究にかかった。YouTubeで名前を知ってる女性ピアニストを片っ端からサーチするのだが、足下がちゃんと見える映像というのが、これが実に皆無に近いのである。ああいう人たちはコンサートのときは、ロングドレスなんかを着たりしているわけだから、まさかそこにドタ靴はあり得ないだろう。じゃあ、どんなヒールの靴を履いているのか、気になって仕方がないのだが、その「証拠画像」がいっこうに見つからない。 数ヶ月前のことだが、とあるチェロのコンサートに出かけたとき、ピアノの女性が、9センチヒールの靴を履いて演奏していた。「そうか、こんな高いのでもオッケーなのか」と、私はチェロのほうはそっちのけでピアニストのほうばかり見ていた。対するチェリストのほうはといえば、これは田舎の真面目少年がそのまま青年になってコンクールで賞とっちゃった・・・という以上のなにものでもなく、プレゼンスの全然ない人だったので、演奏開始後、間もなく私は彼への興味を一切失ってしまっていた、という理由もあるけれど。逆にその若い女性ピアニストは、年齢的には同世代であろうチェリストの坊やとくらべても圧倒的に存在感があって、そしてなかなか上手。それをハイヒールで堂々とやってるわけである。 ハイヒールなんてものは、履き慣れていない人が「晴れの場」に突然履いたって、それは無様なだけである。姿勢が前屈みになったり、歩き方がヨチヨチしたり、と、要するに脚から続く一直線、靴も身体の一部、という境地には到底至ることができず、それがジミーチュウだろうがルブタンだろうが、けっしてきれいとはいえない。件のピアニストは、間違いなく毎日のお稽古にだって同じようなハイヒールを履いてることだろう。きっと彼女の家には「ピアノ仕様」のハイヒールが何足もあることだろう。と、そこでまたまた素朴な疑問が一つわいた。日本の家は靴を脱ぐじゃないですか。日本のピアニストたち、いや、音大生くらいでもいいけれど、彼女たちは家でお稽古するとき、どうしているのだろう。レッスンが、学校という靴環境でなく、先生の自宅というような場だったとしたら、そのときはどうしているのだろう。まさかスリッパってわけないよねとは思うけど、室内専用のピアノ靴(体育館シューズ、みたいな位置づけですね)を彼女たちは常に携行しているのだろうか??? 訓練すれば、私も脚をつったり、ズリッとなったりしないで、ハイヒールでペダルもちゃんとコントロールできるようになるものなのだろうか。私のピアノの先生は男性なので、そんな素朴にして真剣そのものの女性専用の疑問をお尋ねしてもきっとわかんないんじゃないかと思うから、だから私はこの点を誰にも相談することなく、一人悶々としているのである。そして全然結論が出ないまま、非常に不本意ながら「半端な靴」でピアノに向かい続けているのである。 ※どなたかいいお知恵があれば、ぜひ、ご教示願いたいです。
by michikonagasaka
| 2012-09-13 16:38
| ピアノのお稽古
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