序文にかえて
パリを皮切りに、アメリカ、ロンドン、そしてスイス等、国外が人生の半分以上になりました。多様な人々や文化や言葉に晒されるのがごく当たり前の日常。その中で色々なことを思ったり考えたりします。音楽と文学と哲学とお酒が、たぶん一番好きなことですが、昨今の国内外の状況には、いつまでもapoliticalでいられるはずもなく、ここでもときどき政治のことを書いたりします。
最新刊 「パリ妄想食堂」(角川文庫) 近著 「神話 フランス女」(小学館) 「難民と生きる」(新日本出版社) 「旅に出たナツメヤシ」)(KADOKAWA) 執筆依頼、その他、お問い合わせはmnagasakaアットマークbluewin.chまで カテゴリ
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2012年 12月 09日
友人のMさんは、いつもあふれる思いを言葉で表情でそして行動で、それはもうたっぷりと雄弁に惜しみなく伝えてくれる人。そのMさんが昨晩、「あなたのフェアリーテール卒業祝いに」といって一冊の本を贈ってくれた。 『A bis Z eines Pianisten, Ein Lesebuch für Klavierliebende』 (一ピアニストのAからZ、ピアノを愛する人のための読み物) 著者は巨匠ピアニストのアルフレッド・ブレンデル。 ピアノ弾きのための個人的ディクショナリーといった趣のこの本には、「A-和音」「B-バッハ」「I-解釈」「L-レガート」「P-ペダル」などという語と、それについてのブレンデルの「見解」「定義」がABC順に並んでおり、ときおり、ほのぼのと可愛いデッサンが差し挟まれている。紙も厚め、行間も広くとってあり、半分画集のようなつくりの美しい本だ。 ・・・・というただそれだけでも、すでに十分素敵なプレゼントなのだが、実はここには二重三重に込められた思いがあるのである。 三週間ほど前、ルツェルンまでシューベルトのコンサートを聴きにいった。有名なルツェルン・ピアノフェスティバルの一環で、この日の演奏は英国人ピアニスト、ポール・ルイス、曲はシューベルト、そして演奏に先立ち「シューベルトの最後の3つのピアノソナタ」という題目で、ブレンデルのお話がついてくる、という盛りだくさんのプログラムだ。このブログでもたびたび触れたが、私はどういうわけかシューベルトの音楽に妙に敏感で、よく唐突に涙腺が決壊するのだが、いかんせん、クラシック音楽とのお付き合い歴が浅いものなので知らない曲が無限大にたくさんある。この日のお話、そして演奏によってスポットが当てられたシューベルトの「最後の3つのピアノソナタ」というのも、恥ずかしながらどれもそれがどんな曲だか知らなかった。けれど、巨匠がシューベルトのピアノ曲について何かを語るわけなのだから、それを聞けばなぜ自分がシューベルトに反応しやすいのか、という謎がもしかしたらほんの少し解けるかもしれない、という期待があった。そんな訳で、私はこの夜の「お話」をそれはそれは楽しみにしていたのだった。 ブレンデル氏は(あとで知ったが)オーストリア人である。それがどの程度、オーストリア訛りのものなのか私にはよくわからなかったけれど、その夜のお話は当然ドイツ語で行なわれた。ステージの真ん中にピアノがあって、その前にブレンデル氏が座り、観客のほうを向いて用意してきた原稿を読み上げるような形で話を進めていく。時折、「例」を示すために、身体の向きを90度変えてピアノに向かい、パッセージをいくつか弾く。 普段着みたいな様子で登場したブレンデル氏、気取りやはったりとは無縁の、しごく親密な空気に満ちたお話ぶりには大層好感がもてる。 ああ、なのにその夜の私の落胆といったら!!! なにしろ、彼の話の半分くらいはわからないのである。ドイツ語圏スイスに住むこと、通算9年。なのに私のドイツ語はここまでお粗末であることをこれでもかこれでもかと突きつけられる思いで、それはもう限りなく情けなくみじめだった。 「いいじゃない、道子さんは英語もフランス語もできるんだから」 そういって、こちらの友人たち(みんなドイツ語に不自由しない人たちばかり)は慰めてくれるけれど、越してきたばかりならともかく、こんなに長くドイツ語の土地に暮らしていて、未だにここまで下手というのはどう考えても言い訳のしようがない。 ・・・・・と、その夜のみじめな気持ちを、翌日、私はMさんに打ち明けたのである。 スイス人の旦那さんがいて、スイス人の音楽家たちと室内楽を演奏し、スイスの子供たちに音楽を教えているMさんは、当然、私の100倍くらいドイツ語は上手で、その上、シューベルトの「冬の旅」が大好きというMさんがもしブレンデルの話を聞いたら、さぞかし楽しく、ふむふむとうなずいたり、ハッとしたり、そうかと感心したりすることもたくさんあったことだろう。 「最近のキーワードから、ブレンデルとドイツ語に取り組んでいただいちゃおうかなとひらめいてしまいました。新しく生まれ変わるであろうお部屋の仲間に入れてください」 本に添えられていたカードには、そんな台詞があった。ああ、またあなたは贈り物の天才ぶりを発揮してくれましたね、と、私は天に昇るほど嬉しく、そして、よし、この本をまずは読んでみよう、と固く決意したのであった。 スイス国内のニュースや話題について、ドイツ語の新聞を読んだりするのはかったるいので、私はいつも安易な道(フランス語圏の新聞)に流れ、商品や薬についている説明書きも、この国では必ずドイツ語、フランス語併記なのをいいことに、ドイツ語部分(これが普通最初に書いてある)は思い切りすっ飛ばしてフランス語で読んでばかり。そういうことではいかんのだ、と、怠け心に鞭を打つことに今朝、決めたのである。 実は、Mさんの贈り物に先立ち、ちょっと思うところあって私はamazon.de(ドイツのアマゾン)から一冊の本を購入していた。 『DU BIST MIR SO UNENDLICH LIEB』(Michail Krausnick) ーー(あなたは私の限りなく愛しい人) シューマンとクララとブラームスの三人がそれぞれに宛てた書簡、および日記の中から互いの愛や敬愛、慈しみにフォーカスを当てて抜粋・編纂したこの小さな書物を、これなら読めそうかなと思って注文したのだが、もちろんまだ手をつけずにそのまま机の脇に置いてある。 贈り物の天才のMさんに敬意を表し、その思いと「期待」に応えるためにも、まずはこの二冊のドイツ語の本を読んでみること、それを私の読書カレンダーの一番に抜擢しよう。フェアリーテール卒業後の最初のお仕事として。
by michikonagasaka
| 2012-12-09 04:56
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