序文にかえて
パリを皮切りに、アメリカ、ロンドン、そしてスイス等、国外が人生の半分以上になりました。多様な人々や文化や言葉に晒されるのがごく当たり前の日常。その中で色々なことを思ったり考えたりします。音楽と文学と哲学とお酒が、たぶん一番好きなことですが、昨今の国内外の状況には、いつまでもapoliticalでいられるはずもなく、ここでもときどき政治のことを書いたりします。
最新刊 「パリ妄想食堂」(角川文庫) 近著 「神話 フランス女」(小学館) 「難民と生きる」(新日本出版社) 「旅に出たナツメヤシ」)(KADOKAWA) 執筆依頼、その他、お問い合わせはmnagasakaアットマークbluewin.chまで カテゴリ
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2016年 01月 19日
定期購読(Web版)しているわりには、ほんとうにいつも拾い読み程度しか目を通さず、もったいないことだと思い続けて早や数年。けれど、その拾い読みの中にときどき、はっとさせられるものがあって、それがためにこのNew York Times紙の講読をキャンセルすることができないでいる。 今朝、またそんな「めっけもの」に一つ出くわした。 Thoughts on a Poland in Flux: Readers Speak Out と題されたもので、ポーランドの読者たちの声を、(若干の編集を加えながら)そのまま流しただけのシンプルな仕立ての記事なのだが、これを読んでいるだけで伝わってくる「空気」というものがあり、それは、他の媒体も含め、日々接する国際情勢報道の余白でちらっとお目にかかる程度のポーランドの国政状況を、実に雄弁に語るものである、と感じた。と同時に、これがポーランド一国の出来事にとどまるものではないこと、むしろ難民問題やテロ、中東の政情不安、世界の力のバランスといったビッグピクチャーのなかに位置づけられるべき話であり、そして日本の現況と妙に似通っている部分が多いことを含め、「遠いどこかの国の関係ない話」ではないことを痛感する。 冒頭のイントロダクション部分を少しだけ訳出。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 新しい右派政権のもと、この国の向かう方向について、ポーランドでは熱い議論が巻き起こっている。欧州連合にもこの議論の余波が及び、またベルリンの壁崩壊から4半世紀以上を経た東欧・中欧における民主主義の向かう道について多くの疑問を露呈する議論でもある。 法と正義の党(ポーランド語の略称はPiS)率いる現政権が、公共放送や法システムへの介入を強め、国民生活において、保守的で宗教色の強い(ローマ・カトリック教会)価値観に重きを置くよう画策する中、NYタイムズ紙は、ポーランドの読者に、この国で何が変わったか、またどんな怖れや希望を抱いているかを話してくれるよう依頼した。 (1000人以上からの回答を得た) 右傾化への圧力やナショナリスト熱の高まりに、選挙権民としての力を喪失したと感じたり、西ヨーロッパとの連携を強めた方が国益にかなうと論じる人たちがいる一方、新政権の支持者たち(都市部でない地方の居住者や熱心なカトリック信者たち)は、この国の新しい歩みについての報道には偏りがあると感じている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 詳細は記事をお読みいただくとして、かいつまんで「空気の断片」をお伝えしてみよう。 「社会の二極化」 I feel sad and astonished at how quickly one can divide Poles into “us” and “them,” “better” and “worse,” “patriots” and “traitors.” This division is absurd and not supported by any rational arguments. But it’s beneficial for Law and Justice, so those in power carefully cultivate it and foment animosity on both sides of the conflict. あっという間にポーランド人の中で「我々」と「彼ら」、「よい国民」と「悪い国民」、「愛国者」と「国賊」という分断が起きてしまったことに、悲しみと驚きを感じている。このような分断は馬鹿げているし、理性的な議論に裏付けされたものでもない。しかし、これは与党には有利なことなのだ。だから政権にあるものたちは、こうした空気を助長し、両者の中に互いへの敵意や憎しみを周到に増殖させるのである。(アンナ 国際幼稚園教諭補佐、27歳) 「自由は、自らの手でつかみ取ったものであったことを、再び思い出す」 It makes me remember the Communist era. Government saying that everything is right, when thousands on the streets and experts say the opposite. For the first time since 26 years of freedom, I and my friends are worried about our democracy. 共産主義時代を思い出す。路上で抗議する人々や、専門家たちの発言に反し、政府は「すべて問題ない」という。26年間の自由をへて、今、初めて、私も周りの友人たちも、この国の民主主義について非常に心配している。(グジェゴシュ 心理療法士 、41歳) 「自転車とベジタリアンがマルクス主義者?!」 As a translator working with E.U. documents and someone who has to care much about words, I feel oppressed by the sheer stupidity of the statements of our current government. Our minister of transport is deeply concerned about chemtrails. Our minister of foreign affairs considers riding a bike and being vegetarian as Marxist. And to add insult to injury, there is also the unbelievable insolence. A former Communist prosecutor is leading the efforts to dismantle the Constitutional Court. A guy involved in the financial schemes now presides the Finance Commission in the Senate. I have stopped listening to the radio and reading newspapers. 欧州連合の公文書の翻訳者として、また言葉に敏感であらねばならない一人の人間として、現政権の発言のあまりの愚かさにすっかりしょげかえっている。交通大臣は飛行機雲への懸念にかかりきりだし、外務大臣は自転車に乗ったりベジタリアンであったりすることを「マルクス主義者」呼ばわりする。さらにひどいのは、元・共産政権の検察官が、憲法裁判所を骨抜きにしようと努めているし、金融スキームに関わる人間が、上院の金融委員会で委員長を担う始末。ラジオを聴くのも、新聞も読むのも、もうやめてしまった。(トマーシュ 翻訳家・フランス文学博士課程、32歳) 「メディアの行方」 I am afraid that soon public media will be exclusively conservative and any other point of view will be treated as an action against the law. I was born in 1993 and have lived my whole life in a free, democratic country, and I want it to stay this way. もうじき、公共メディアは保守一色になり、他の視点は違法行為などとして扱われるようになるのではないかと怖れている。1993年に生まれ、これまでずっと自由な民主主義国家に生きてきた。これからもそうでありたい。 (モニカ 英語文献学修士課程、23歳) 「市民社会の誕生」 Poland has changed a lot since the Law and Justince Party came to power, mostly for the worse. However, there is one positive thing — the rise of civic society, which is something we never truly had in the past. Our country has been through a lot in the past, and we as a nation have shown that we will fight for our freedom and values we believe in. 法と正義の党が政権を取ってからポーランドは、そのほとんどは悪い方向へと大きく変わってしまった。しかし一つだけいいことがある。市民社会が育ってきたということだ。過去には真の意味でそうしたものはなかった。僕たちの国は多くの経験をしてきた。自由と、大切な価値観のために闘う国であることを都度、示してきたではないか。それをまた見せるときなのだ。(ツェザーリ 高校生 16歳) 「外国人への怖れ」 Many of my friends who have never shown an interest in politics are suddenly paying very close attention. The changes here are alarming, and the mounting xenophobia a source of concern to expats who have made their home here. これまで政治に無関心だった多くの友人たちが、今、政治に注視している。最近の変化は警戒すべきものだ。外国人排斥・嫌悪の動きは、この国を故郷と定めた多くの外国人たちの大きな心配事になっている。 (マーク ベーシスト、 58歳) 「排斥や疎外」 As a homosexual, I am afraid for my life and my freedom. I am afraid to hold my girlfriend’s hand in the street. We are afraid to talk about our relationship in public. Mostly, we are afraid of being beaten up. It has become harder for L.G.B.T. rights organizations to work. The entire gay community in Poland is afraid that these recent changes in Poland might also bring an anti-gay law — similar to the one in Russia. 同性愛者として、自分の人生や自由のことを心配している。ガールフレンドと路上で手をつなぐことが怖い。公の場で自分たちの関係を話すことが怖い。もっとも怖いのは、攻撃の対象となることだ。L.G.B.T.の権利のための組織の活動は難しくなってきている。ポ―ランド全土のゲイ・コミュニティは、この国の昨今の変化の一環として、ロシアで制定されたような反同性愛法が、ポーランドでもつくられるのではないかと怖れている。(カタジーナ 学生、 23歳) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ベルリンの壁が崩壊したとき(1989年)、私はパリにいた。滅多に見ないテレビに釘付けになり、ドキドキしながらことの流れを見守っていたことを、昨日のことのように覚えている。そして、西ヨーロッパの人々が抱いた高揚感と希望とユーフォリア(とうとうこれで世の中はいい方向に向かっていくんだ!!)を、私もまた共有し、ハイになった。その数ヶ月後、仕事で訪れたモナコで、崩壊したベルリンの壁の破片を拾い集めたオークションが大々的に催されている場に居合わせた。そうか、こういうことは商売になるのか、あるいは、人々の所有欲を刺激する何かを、あのベルリンの壁崩壊という一大スペクタクルは内包していたのか、という、驚きや感慨と共に、私はその模様を傍観していた。 ヨーロッパは一つ!!! ゆるやかなキリスト教文化圏という過去の遺産、そして自由や民主主義という19世紀来の新規な価値観を、言語や文化の差を乗り越えて我々は共有し得るんだ、という夢物語のあちこちにほころびが生じて久しい。先の難民問題で、鮮やかに露呈された東西ヨーロッパの価値観の違いに、西ヨーロッパに長らく暮らしながら、東ヨーロッパに一種のロマンチックな思い入れの視線を注いできた私(ショパンやバルトークやヤナチェクの音楽、クンデラなどの文学、そしてプラハの春やハンガリー動乱で西側に移民してきた人々の、繊細で文化度の高いイメージなどをベースとしている)は、実のところ、少々動揺しているのである。 身近なところで知るポーランドの人々は、おしなべて愛国的で保守的ではある。つねに大国に占領されたり蹂躙されたりしてきた歴史を思えば、そういう方向にいくのもあながち無理からぬこと、とも思う。15年くらい前に訪れたワルシャワでは、反ユダヤ的な発言を平気でするどこかの美術館の学芸員に驚き、町中の教会に熱心に集まる信心深い老若男女の姿にも面食らった。ご飯はあまり美味しくなく、共産主義時代の名残である、人間性をなるたけ排除したようなグレーの町並みは美しさとはほど遠く、人々の表情の暗さも気になった。けれど、2年前に訪れたクラカフでは、人々は陽気で社交的で寛容性も高い印象。街の雰囲気も、ヨーロッパのごく普通の中規模の街となんら異なることはなく、きわめて「今風」だったことが印象的だった。ワルシャワとクラカフという街の性格の違いを差し引いたとしても、きっとこの十数年の間にポーランドは、ずいぶんと自由で開放的な国に変わったのだろうと想像する。そういう流れの先に、今の「変化」が訪れた。 信条や表現やライフスタイルの自由。多様性への寛容。理想主義的な国家観と世界観。 そういうものが、今、世界のあちこちで、同時多発的に脅かされている状況にあることを感じる。人間は、歴史から学ぶどころか、歴史の教訓をあまりにあっさりと忘れたり葬ったりしてしまう存在であることに愕然となる。
by michikonagasaka
| 2016-01-19 06:34
| 考えずにはいられない
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