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序文にかえて
パリを皮切りに、アメリカ、ロンドン、そしてスイス等、国外が人生の半分以上になりました。多様な人々や文化や言葉に晒されるのがごく当たり前の日常。その中で色々なことを思ったり考えたりします。音楽と文学と哲学とお酒が、たぶん一番好きなことですが、昨今の国内外の状況には、いつまでもapoliticalでいられるはずもなく、ここでもときどき政治のことを書いたりします。
最新刊 「パリ妄想食堂」(角川文庫) 近著 「神話 フランス女」(小学館) 「難民と生きる」(新日本出版社) 「旅に出たナツメヤシ」)(KADOKAWA) 執筆依頼、その他、お問い合わせはmnagasakaアットマークbluewin.chまで カテゴリ
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2019年 01月 11日
![]() さて、今年最初の読書は稲葉賀惠さん“語り下ろし”『マイ・フェイヴァリット』。副題に「きものに託して」とあるように、これはデザイナーの稲葉さんと着物の長いお付き合いについて語られた本。綺麗な写真や脱線コラムも充実している上、装丁や紙質も上等で、本というよりも上質なつくりのムックといったほうが近いかもしれません。 ライターとしてこの本に関わった友人・河合映江から旧年中にご恵贈いただいたものでしたが、年明けてやっと落ち着いて手に取ることができました。友人贔屓かもしれませんが、彼女の編集者・ライターとしての力が遺憾なく発揮された読みやすい文章や目次立てが、まずは本書の魅力です。その文章の効き目もあるのでしょう、目の前にお着物を召した稲葉さんがいらして、美味しいお濃茶を入れてくださりながら問わず語りにおしゃべりしているような空気が全体から漂ってきて、それがとても楽しい。 50歳を少し過ぎた頃でしたか。突如、天啓が下るようにして閃いたのでした、「日常的に普通に着物を着ているような60歳でありたい」という妄想が。イメージしたのは、大騒ぎをして特別なこととして着る着物ではなく、涼しい顔で所作などもそこそこ身についている「レベル」。理想は割烹着を上に羽織って台所仕事もこなせるほどの「日常性」。コスプレとしての着物から完全に脱却した平服としての着物。もちろんそのレベルに達するのは容易ではないことはよくわかっていました。残された時間はもう数年しかない。ならば急いで練習を始めなければ! そんな覚悟とともに武者震いした日が昨日のことのように思い出されます。 とはいえ、現実はなかなか理想通りにはいかぬもの。時計の針は年々早く回るようになる一方、億劫だったり、寒すぎたり暑すぎたりで練習の機会は希少といえるほど。茨の道の途上で相変わらずオタオタとまごついている身にとって、この本は大いなる刺激となりました。 本書にも詳しく書かれていますが、稲葉さんが雑誌「ミセス」誌上で着物の連載をされていたちょうどその時期、私自身は同じ女性誌業界に身を置き、「美しいキモノ」という着物専門誌の編集部に在籍。人形町や浅草あたり、時に京都まで出かけて問屋さん、帯屋さん、小物屋さん、それに展示会などを巡って次号撮影用の着物を反物から仕立ててもらう。出来上がった着物を名だたる女優さんに着ていただき(当然、ヘアメイクから着付けまでバッチリつきます)、秋山庄太郎、藤井秀樹、立木義浩といった大御所フォトグラファー氏たちに4x5という写真館みたいな大判のフィルムで撮影していただく。そんな日常を送っていましたので、それはもうすごい数の着物や帯に触れたものでした。「触れる」ということの中には、畳やたとう紙の上にずらりと広げられた反物を次から次へと巻いていくとか、草履の底が撮影で汚れないのように「底ばり」といって厚紙を貼り付ける、あるいはたたみジワを取るために当て布をしてアイロンをかけるといった手作業も山ほど含まれており、視覚はもちろんのこと手先、指先で着物を「感じた」体験は、やはり変え難いものだった、と今頃になって痛感しています。 本書で紹介されている稲葉さんの私物の素敵なお着物の数々。民藝品やお茶のお道具。古代裂や一輪挿しの花。伊兵衛織の格子や縞柄のアップ。どの写真もそれはそれは美しく、とはいえ、それが「ああ、こんなの欲しい、私も」という所有欲に一直線につながるかといえば、そうでもなく、ただただ目の保養というので十分。若い頃から手仕事や職人技といったものへの敬意と憧れを強く抱いてきましたが、改めて、その思いを強くさせられるような一冊でした。 「民藝のモダンに触れる」という章の中、「見てから知れ。知ってから見るな」という柳宗悦の言葉が紹介されています。なるほど、と強く共感するとともに、本書でも詳しく紹介されている駒場の日本民藝館に展示されていたクリーム色の結城紬の美しさに、私自身、感動のあまりしばしフリーズしたことを思い出しました。元来が粗忽な人間ですが、「着物を着る日常」という妄想イメージ(および、そのための練習)の助けを借りて、ほんの少しでいいので、優雅とかたおやかといった方向に遅まきの軌道修正が叶うなら、なんと素敵なことでしょう。
by michikonagasaka
| 2019-01-11 07:44
| 本
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