序文にかえて
パリを皮切りに、アメリカ、ロンドン、そしてスイス等、国外が人生の半分以上になりました。多様な人々や文化や言葉に晒されるのがごく当たり前の日常。その中で色々なことを思ったり考えたりします。音楽と文学と哲学とお酒が、たぶん一番好きなことですが、昨今の国内外の状況には、いつまでもapoliticalでいられるはずもなく、ここでもときどき政治のことを書いたりします。
最新刊 「パリ妄想食堂」(角川文庫) 近著 「神話 フランス女」(小学館) 「難民と生きる」(新日本出版社) 「旅に出たナツメヤシ」)(KADOKAWA) 執筆依頼、その他、お問い合わせはmnagasakaアットマークbluewin.chまで カテゴリ
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2019年 05月 06日
スペインのコルドバに来ています。昨日までグラナダにいて、アルハンブラ宮殿で丸一日、魔法にかかったような状態だったり、作曲家マヌエル・デ・ファリャの家を訪ねたり、彼の友人だった画家、ゲレロの美術館に遊んだり、タパスバーでのらりくらり過ごしたりと楽しい時間でしたが、ここコルドバはコルドバで、また別の意味で面白い。そのことをちょっと書こうと思います。 遠い昔、西洋古典と中世哲学をちょっとだけ勉強した私にとって、コルドバ訪問はいわば巡礼のようなもの。何しろここはセネカの聖地であり、マイモニデスが活躍した街であり、アヴェロイスが生きた土地なのです。当時はヨーロッパの地理感覚も世紀のイメージも全く持ち合わせず、「どこでいつ」という感覚が全く欠落した状態でセネカのテキストを読んだり、アヴェロイス経由でアリストテレスと邂逅した中世ヨーロッパ人たちの興奮を追体験していたに過ぎませんでした。コルドバという名前はそれなりに見たり聞いたりしていたのでしょうが、セビリヤやグラナダ同様、ローマやカルタゴ同様、コンテクストも距離感も時間感覚も伴わない個別の抽象的な名称に過ぎませんでした。それが今回、地図を片手に街をそぞろ歩く中、セネカの銅像(頭なし)がポツンと佇むセネカ広場、迫害され、追放されたセファルディムユダヤ人の軌跡を綴る美術館、イスラム文化の栄華と衰退を物語るモスクといった場所に身を置くことで、ばらばらだったパズルのピースが一挙に居場所を見つけておさまる感覚といいましょうか、ああ、ここでこうやって彼らは時代の空気を吸い、行き交う人々と交わり、思索し、食べて愛して悩んだんだなあ、と合点が行く思いでした。 折しもこの週末は「五月の十字架 (cruces de mayo)」というお祭りのようで、赤いバラでかたどられた十字架が街のあちこちで見られます。十字架の足元は色とりどりのお花畑。そして町の広場に設けられたステージでは地元のダンス学校の生徒さんたちがフラメンコの技を競います。大人から子供まで、フラメンコの踊り手の層の厚さは実に大したもの。真っ赤な口紅、キチキチにひっつめたシニヨン、太めに描かれた眉毛。ダンスにおける目力とポスチャァの大切さを思い知らされると同時に、ここはローマ・カトリックの地なのに、全てが濃いめのキンキラキン満艦飾。東方教会に通じるキッチュな美意識の迫力にも感銘を受けました。 一夜明けた日曜日は五月の十字架祭りもいよいよ佳境に入り、これまた東方教会(ギリシャ正教やロシア正教など)的なコスチュームやプラスチックっぽい神輿(というのか)が醸し出す雰囲気は、世界のどこでも通用する土着の伝統行事の普遍的な空気でいっぱい。方やその同じ街角には威風堂々のコミュニストパーティ本部の姿も見え、フランコ時代の抑圧と専制に抗した彼らの声が聞こえてくるよう。 実際、今回の旅では、フランコの爪痕というか、傷というか、そういうものを色々感じました。ピカソもゲレロもデ・ファリャもカザルスも、そういえばみんなフランコ時代に祖国を捨てた。およそ何かを表現したいタイプの人間にとってファシズムや検閲、言論統制ほど辛く悲しく窮屈なものはない。 「書を焼く者は人をも焼く」と言ったのはハイネでしたか。コルドバに来てハイネを思い出すというのも変なものですが、イスラム学者アヴェロイスの西洋思想史における尊い貢献、セネカの作品を21世紀の私たちが(しかも翻訳で)読める奇跡、スペインを追放されたユダヤ教徒の系譜にスピノザもいたのだ、というようなビッグピクチャーがにわかに立ち昇ってきたのが今回の旅であってみれば、そうした感慨もそれなりに筋が通るように思われます。 さて、我らがセネカ、私のロマンチックな郷愁をややくじくかのように、ここでは一つ星ホテルや自動車教習所の名になっていたりします。その世俗化、商品化の勢いはポーランドにおけるショパン、ザルツブルクにおけるモーツァルトのポジションにも通じるものがあり、しかし、まだまだずっと控えめなところにホッとします。マイモニデスに至っては商品化のかけらもなく、やれやれ。 最後に備忘録として、セファーディックユダヤ美術館で見つけたマイモニデスの「よい食べ物、悪い食べ物リスト」をご紹介。これは彼の著作「健康な食事」の冒頭を飾るリストだそうですが、後に大迫害で消滅してしまったこの地のユダヤ人たちの黄金時代が垣間見え、諸行無常とつぶやかずにはおられぬところです。 プラム :食前に食べると下剤として効果的である。 ほうれん草 : 便秘によい。 メロン : 黄色いメロンはよい食べ物。離尿効果に優れ、血管をきれいにし、消化もよい。 イチジク : ブドウと並び、最も害のない食べ物である。 桃 : 最悪の果物の一つ。気分のムラを生む。 ザクロ : 食後にグラス一杯のザクロジュースをお勧めする。 豆 : お勧めできない。頭をぼんやりさせるから。 アプリコット : 最悪の果物の一つ。 ヤギ肉 : とてもよい。神経系の病を防ぐ効果あり。 チーズ : 脂質が多く体に悪い。ただし白いチーズは例外。 グリンピース : 食前に食べるのがよい。マイルドな下剤効果あり。 オリーブオイル : ドレッシングとして用いるとよい。 はちみつ : 高齢者によい。 ドライフルーツ : 食事に添えるとよい。肝臓によい。 ナス : 男性にはおすすめしない。 ワイン : 最良にしてもっとも味わい深い食べ物。栄養価に優れ、為になり、消化を助ける。
by michikonagasaka
| 2019-05-06 01:50
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