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序文にかえて
パリを皮切りに、アメリカ、ロンドン、そしてスイス等、国外が人生の半分以上になりました。多様な人々や文化や言葉に晒されるのがごく当たり前の日常。その中で色々なことを思ったり考えたりします。音楽と文学と哲学とお酒が、たぶん一番好きなことですが、昨今の国内外の状況には、いつまでもapoliticalでいられるはずもなく、ここでもときどき政治のことを書いたりします。
最新刊 「パリ妄想食堂」(角川文庫) 近著 「神話 フランス女」(小学館) 「難民と生きる」(新日本出版社) 「旅に出たナツメヤシ」)(KADOKAWA) 執筆依頼、その他、お問い合わせはmnagasakaアットマークbluewin.chまで カテゴリ
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2020年 03月 04日
初めて訪れるパリのコンサートホール「フィルハーモニー・ドゥ・パリ」。遠い20区の果てにあるようなので、遅れちゃ大変と早めに出たら、友達との待ち合わせの30分前に着いてしまった。寒い日だったのでとりあえず道を挟んだ反対側のカフェに飛び込み、ビールを一杯注文。妙に人懐こい店のおじさんが、まあ、例によって色々軽口たたくんですね。適当に相槌打ちながら、ビールをゆっくり飲んでいたら、あっという間に30分。勘定払って、さあ、そろそろ行こうか、という段になったらそのおじさん、「知ってますかい? 今晩はお向かいにジャポネのオーケストラが来るんですよ」と、何やらとっておきの秘密でも耳打ちするような口ぶり。しかも、やや自慢げですらある。一瞬、なんのことかよくわからず、「へーそうなんですか」と間の抜けた答えを発したその1秒後に、ああ、それ、それ、と事の次第を理解する。 「はいはい、そのために来たんですよ」 「おーそうですか、それはお目が高い」とおじさん、太めの親指を勢いよく突き出してウインク。そして席を立った私の背中に向けて「ボン・コンセール(良いコンサートを)!」 どこまでもご機嫌で愛想の良いおじさんだ。 そのジャポネのオーケストラ、というのはNHK交響楽団。ヨーロッパツアー中の同楽団が私のパリ滞在中のこの日、たまたまパリでコンサートをするというので、友人を誘って聴きに来てみたたところ、これが大変に素晴らしいコンサートだった。まずはホールが素晴らしい。音響の椅子も照明も、どれもが大変よくできている。 この夜のプログラムは武満徹、ベートーヴェン、ブルックナー。指揮はパーヴォ・ヤルヴィ。そして真ん中のベートーヴェンはピアノコンチェルト三番ハ短調でソリストはカティア・ブニアティシヴィリ。N響との付き合いが長いだけあって、ヤルヴィとオケとの息がぴったりあって、自由自在なテンポの変化にも、全く問題なく綺麗な音がきちんと揃って、それでいてくつろいだ伸びやかさがあってとても心地よい。今日はどんな水着姿、もとい、お召し物で現れるのだろうかと楽しみにしていたカティアは、パフスリーブにバルーンロングのドレスで、いつもより肌の露出はぐっと少なく、何かのメルヘンのプリンセスのよう。気のせいか、これまでのカティアよりぐんと成熟度を増し、奏でる音の一つ一つのなんと綺麗で深いこと。ピアニッシモの、ルバートのなんと美しい事。クラリネットとの掛け合いの、なんと官能的なこと。 楽章の間に結構盛大な拍手が鳴るのは、はて、これはもしや最近の流行りなのだろうか、と私はやや戸惑ったが、演奏者たちも特に気にする様子もなく、おおらかな雰囲気のまま最後の音まで一気に進む。パリの観客の温かいブラヴォーと拍手が鳴り響く。エヌアッシュカー(NHK)、なかなかやるじゃないか。パリの観客も、そして長年、N響を聴いて来た私も、同じように感じたと思う。 実はこのコンサートがあった日(先週の火曜日)、ラジオを聴いていたら「フランス国内・コロナウィルスの最後の感染者も無事、快癒し、本日、自宅に戻りました。これでフランスでは感染者はゼロになりました」というニュースがアナウンサーのやや得意げな声で伝えられていた。そうなのか、ゼロなのか、フランスは。 コロナ・ゼロの国の余裕なんだか、件のカフェのおじさんはもちろん、どこで誰と出会っても、みんなごく普通の態度で、巷で騒がれているアジア人差別的なことも、私は一度も体験しなかった(一ヶ月前、コロナがまだ「新しいニュース」だった頃、フランスでもアジア人差別が過熱した、というニュースに触れたし、私自身も「あれ?」という瞬間がないことはなかったが、今回は皆無だった)。もちろんイベント自粛などの動きもその時点では一切なく、だからその夜のコンサートも満員御礼で無事終了したわけなのであったが、以来、わずか一週間の間にフランスの感染者は0から212人に急増。死者も4人が確認されており、マスクの品切れも報告されている。ルーブル美術館は従業員の労働法で保障されている撤退権(生命や健康に差し迫った重大な危険がある場合に仕事から退く権利)の行使で急遽閉館に(ル・モンド紙(2020年3月3日))。 私が暮らすスイスでも、ここ一週間で感染者が39人となり、1000人以上の室内イベントが禁止され、職場や学校、役所などに感染を抑えるための「注意事項ガイドライン」が一斉に配られた。手洗いやうがいの励行はもちろん、握手やほっぺのキスも「できれば避けるように」、そして「症状が出たらまずは自宅で様子を見て、心配ならば0000番へ」という相談窓口も設けられた。アイスホッケーやサッカーのリーグ試合、ジュネーブのモーターショーや時計サロンなど、大きなイベントの多くがすでにキャンセルに追い込まれ、スーパーでは小麦、パスタ、米、それにハンドソープや消毒液、生理用品などの棚がガラガラになっている。 自分がかかるのも嫌だけれど、たいした症状も出ないまま、実は感染していてお年寄りに移したりしたら嫌だなと思うから、ここしばらく、手洗い励行しすぎてもうカサカサなんてものじゃなく、ハンドクリームをつけた途端にトイレに行きたくなって、ついつい、わ、もったいない、と思ってしまう自分の滑稽さに苦笑し続ける、そんな毎日である。もちろん、日本の後手後手のコロナ対策状況も逐一、ソーシャルメディアを通じて伝わってくる。三月末に予定していた私自身の日本行きも、同行者(イスラエル人)たちがお国で日本渡航禁止になっているとかで、おそらくはキャンセルすることになるだろう。そんなこんなでいきおい気も滅入る。 冒頭のコンサートの話ではないけれど、気が滅入りがちなこんな時は、例えば音楽が大いなる慰めになる。幸い、今週日曜に予定されている合唱のコンサートは今のところ予定通り行われる模様。今週はリハーサルがあと2回。合間にラジオで音楽聴いたり、家でピアノに触ったり(長患いの腱鞘炎がやっと治ったので!)。歌ったり弾いたり聴いたりしている間は、とりあえずシンプルに楽しい。 日本では多くのコンサートがすでにキャンセルになっていると聞く。欧州でも、内容や規模によってはキャンセルになったり、あるいは無観客コンサートという選択をする主催者もあるようだ。わずか一週間前の呑気で楽しかったコンサート風景が、カフェのおじさんの陽気な声が、はるか昔の出来事のように思われる。 日本ではカミュの「ペスト」が急遽増刷だとか。二週間前に多くの感染者が出たイタリアでも「ペスト」が今、大売れなのだという。そのカミュの国、フランスでは、だがまだ「目に見えた大幅な売り上げ増加」はないとか。2016年のテロの後にはヘミングウェイの「移動祝祭日」が、そしてノートルダム寺院の火災の後にはヴィクトル・ユゴーの「ノートルダム・ド・パリ」が爆発的に売れたというが、「ペスト」がそれに匹敵する「現象」になるのも時間の問題だろうか。なんでも小説の世界にも「伝染病ジャンル」とくくれる一連の作品があるとか。 そう、音楽と合わせて、文学もまた、人心荒み不安蔓延のこんな時、人々の慰めとなり、力となるのかもしれない。それにしても、渦中にあって、そのものズバリの文学ジャンルを求める人間の心理というのは、ちょっとわかるようでわからない。「ペスト」はむしろ、伝染病の心配などのない平時にこそ読みたいかな、と私などは思うのだ。作り事の世界(小説)はハウツーものと違って「問題解決」のいとぐちに直結しない素晴らしさが逆にある。風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな本の売れ方というのもどうなのかなあ・・・(笑)。 というわけで、今週の日曜日、3月8日、17時より、チューリッヒのノイミュンスター教会でお会いできたら嬉しいです❤️
by michikonagasaka
| 2020-03-04 07:49
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